Type& Session 1 で発表されたプロジェクトを振り返りながら、ブリヂストンの酒本氏、いすゞ自動車の杉浦氏、Monotypeの小林がブランドと文字のデザインのつながりについて話しました
Type& Session 1 で発表されたプロジェクトを振り返りながら、ブリヂストンの酒本氏、いすゞ自動車の杉浦氏、Monotypeの小林がブランドと文字のデザインのつながりについて話しました。
Monotypeに相談してから制作が完了するまでの期間について
ブリヂストン 酒本氏:弊社の場合は結構長く、2014年から6年ぐらいです。6年と言ってもずっと関わっていたわけではなく、途中で中断もありつつ、じっくり取り組んでいたというイメージです。
Monotype 小林:6年という期間は実際そんなに長くは感じませんでした。例えば、私が担当したSSTでソニーさんと仕事をさせていただいた時も、いきなり書体を作るという話にはならなかったんですね。まず、社員全員にフォントそのものの価値や自分たちでフォントを開発することの価値について、社内のデザイナーや重要なポジションの方々に説明しました。そこから数年間かけて下地を準備していきました。今回のブリヂストンさんのお話もまずリサーチから始めて、じっくりと地盤を固めていきました。
いすゞ自動車 杉浦氏:弊社は小さいところからスタートし、最初から目標が明確だったので、相談してから納品まで10ヶ月ほどで対応していただきました。
Monotype 小林:いすゞ自動車さんはわりと短期間でまとまったのですが、すでに社内で検討されていて、方向性が大体決まった段階でご相談を受けたんですね。ある程度、方向が絞られていた段階でのご提案だったので、制作期間が短かったのだと思います。いすゞ自動車さんの社内でフォントの効果的な使い方についての勉強会やワークショップの機会を設けていただき、社員の方々にフォントを身近に感じていただけたことも非常に大きかったです。
プロジェクト開発までの経緯について
いすゞ自動車 杉浦氏:弊社の場合は、製品で使うフォントを作るという日常の仕事からスタートしているので、会社全体を説得する必要はありませんでした。部内に対しては、私から説明し、問題意識を共有できたので、すんなりスタートできました。
ブリヂストン 酒本氏:私たちは実際に使うことが決まっていない段階で、デザインの研究の一環として書体開発を進めています。なので、時間も長くかかっていますし、ステップとしても緻密に進めていきました。当時のブランドの課題はいくつかあったのですが、その中の一つとして書体の研究を始めたようなイメージです。
Monotype 小林:ブリヂストンさんの場合は、自社の見え方が各国でどのように違うのかというところからリサーチ・分析を始め、基礎を固めていく段階から私が関わらせていただきました。一方、いすゞ自動車さんの場合は、キーワードが決まっている段階で書体を絞っていく相談をさせていただきました。キーワードが決まっていない段階からご相談いただくこともありますし、目指す方向性が決まってからご連絡いただくこともあります。どのような段階からでもご相談を受けて、コーポレートフォントの需要にお応えできます。
デザインの方向性を決める際の判断材料について
ブリヂストン 酒本氏: 3Cやデザインプリンシプルなど、目指す方向性が明文化されているので、基本的にはそれを軸にして判断していきました。それをコアにして、プロジェクトが目指す目的やそこに至るまでのストーリーも加味しています。デザインの方向性が個人の好みや感覚に左右されるのを避けたいと考えています。
いすゞ自動車 杉浦氏:もともと機能的な面からスタートして、その中でブランド感を考えるという順番だったので、方向性でブレることはありませんでした。弊社の場合は、デザイナー同士で話し合い、それ以外の人を説得する場面がなかったので、比較的、方向性を共有しやすかったと思います。
Monotype 小林:今回、ブリヂストンさんといすゞ自動車さんのプレゼンを最初から通して聞いてみて、共通点があると思いました。いすゞ自動車さんの場合は、車の形に似合う書体ではなくコンテンツに似合う書体でしたし、ブリヂストンさんの場合は、タイヤの形に合わせた正円の O(オー)を持った書体ではなく、自分たちが語りかけたい内容にあった書体を選択されました。製品の形と書体の形を結びつけるのではなく、自分たちの目的に合った書体を探すという大きな発想の転換がありました。製品とフォントは似た形であるべきだという呪縛的な考え方から解き放たれるというのは、かなり高いレベルの話だと思います。
コーポレートフォント導入後について
ブリヂストン 酒本氏:例えば、PowerPointやExcelで書体を選ぶ時、その中に自分たちの会社の書体が入っているというのは、デザインに関わらないメンバーについてもブランド意識を高めると思います。社内でデザインする時、グローバルでもその文字を使うだけでブリヂストンらしくなるアイテムがあるというのは、使い勝手のよさを感じます。
自分たちは文字を作るところまで関わりましたが、全社員にフォントを配ったり、使用マニュアルを作ったりする仕事はブランド部門のメンバーがしてくれました。大変でしたが、そこが大事なところだと思います。書体を作って終わりではなく、書体をどう使うか、使うための道筋を作ることが大切です。
いすゞ自動車 杉浦氏:弊社ではコーポレートフォントとして導入しているわけではないので、導入後の話はできないのですが、社内で決められたフォントがあると、どのフォントを使うか迷わず、シンプルに進めていけることがわかりました。
カスタムフォントを利用した今後の展開について
いすゞ自動車 杉浦氏:まずは製品でカスタムフォントを使うことです。最終的にはコーポレートフォントに格上げして、あらゆるものに使えるようにしていきたいですね。
ブリヂストン 酒本氏:まだ全部のウェイトが揃っていなくて、いま少しずつウェイトを増やしている状態です。まずはウェイトが揃うようにしたいです。ブランド表現を統一したいという理由でフォントを作っているので、長い時間をかけながらブランドの文字を作っていきたいです。お客様がこの文字を見た時にブリヂストンを思い浮かべてくださるような文字になっていくとよいと思います。